ひーらぐ日記

自然をこよなく愛する写真家?趣味や興味や楽しかったことだけ書く。

メイドインアビス 深き魂の黎明 映画を見た感想を書いてみました

こんにちは。劇場版メイドインアビス〜深き魂の黎明をご覧になりましたか?「素晴らしい」ですねー。漫画版も楽しいですが、映画になってより分かりやすくなったように思えました。なんと言っても黎明卿ボンドルドがカッコよかった。ファンになってしまった人も多いのではないかと思います。…そんなはずはない?いえいえ、極悪非道な行いと本人の魅力とは関係ありません。何がそれほど魅力的なのでしょうか?

 

(以下ネタバレを含みます)

 

黎明卿は、世界中から孤児や捨て子などを集め、アビスの謎を解明するための人体実験に使っています。その動機はアビスに対する好奇心です。これは呪いのようなもので、アビスの魅力に取り憑かれた人間を「こちら側」と言うようです。あと、アビスの住民を救いたいという気持ちも少しあるようです。アビスでは2000年ごとに住み着いた人間の全生命を消費する一大イベントがあり、それを乗り越えるために「祝福」が必要だと考えているようです。そのイベントは誕生日になると死んだ人々の魂が、アビスに還って積もることで発動しそうです。アビスとは巨大な食虫植物のようなものでしょう。

黎明卿の目的が、世界征服だとか、復讐や己のつまらない欲望を満足させることだったら、これほど魅力的なキャラクターにならなかったでしょう。好奇心を発揮し、日々研究と実験を繰り返し、人類の幸福のために邁進する勤勉な方です。

そして他人に対し、とても寛容な人です。お母さんを探すことと、黎明卿のやり方が気に食わないだけの三人に対し、決して否定したり馬鹿にしたり非難したりしません。戦って負けたあとも、相手を賞賛し、文字通り祝福しているのです。他人の趣味をけなしたり、自分の正義に合わないからといって他人を非難するような最低の人間が闊歩する風潮の中で、この包容力は魅力的です。

さて、黎明卿を語るのに外せないのが、娘のプルシュカの存在です。夜明けの花、暗い闇のあとに訪れる希望の象徴という意味でしょう。黎明卿は血の繋がりは「ない」ではなく「薄い」と言っていました。ゾアホリックとは、単に黎明卿の人格を移植するだけでなく、祈手の人格まで統合するものなのではないでしょうか。黎明卿は彼女をバラバラにしてカートリッジに詰め、自分の肉体を呪いから避け、祝福を受けて強化するために使いました。その行為を「愛」と呼んでいます。黎明卿の役に立ちたいというのがプルシュカの願いでした。またカートリッジは、携帯性を高めるとともに詰められた子供の痛みや苦しみを軽減するよう作られています。プルシュカのカートリッジが使われたときに、黎明卿の姿が他と比べ大きく変わったのは、二人の相互愛が大きかったことを意味します。

一方で、リコたちや観客にとっては、ヘドがでるほどの気持ち悪さと嫌悪感を感じます。特にナナチは、カートリッジがナナチとミーティの実験の産物であることや、自分がカートリッジを作る手伝いをさせられていたことから、怒りMAXでしょう。

両者の感覚のずれについて、ナナチは「やつと話をしていると…」と述べています。このずれ感が良いです。お互いの理解を進める時間もなかったですからね。

メイドインアビスは、愛とは人によって形が違う、そもそも歪なものであり、他者から見れば嫌悪の対象でしかない、ということを教えてくれます。自分の好みでない人からの好意はキモいですよね。でも愛であることは明白です。むしろ世の中の争いごとの全ては、愛が原因であるとも言えます。愛は全てを救うなどというのは、たわ言に過ぎません。愛の違いによって戦いは起こるのです。

メイドインアビスでは「憧れ」「価値」「呪い」「度し難い」などのワードが出てきますが、要するに「愛ですよ、愛」。愛がテーマの文学作品では、愛とは何かという問いに対し、母親の子供に対する愛が最高、みたいな結末が多いです。それは単に普遍性の問題でしょう。母親がいない人間などいないのですから。

というのも、漫画では第6層で、母親の愛を明白に否定しようとしているからです。

 

(以下6層のネタバレを含みます)

 

6層では、イルミーユという娘が産んだ子供たちを巡って争いが起こります。この子供、消化器官がなく生まれてすぐ死ぬ運命にあるのですが、この子供を食べると6層の不治の病が治るため、リーダーのワズキャンが調理してキャラバンのメンバーに振舞います。巨大な村に変化したイルミーユに、罪の意識に苛まれたメンバーが身体を差し出して囚われの身となります。唯一健康に生まれた子供のファプタが、村の人間を皆殺しにするストーリーです。

まだ未完ですが、結末をとても楽しみにしています。ファプタの母親に対する愛と、イルミーユの愛が衝突して悲惨な結果になることが予想されるからです。どちらの愛が勝つにせよ、後味の悪い悲劇にはならないはずです。

6層でもうひとつ衝撃的なのは、ミーティーがいたことです。もし魂まで一緒なら、実験に使われた子供たちも生き返ることが可能なら、黎明卿のしていたことは、全く道理にかなったことであり、リコたちが馬鹿ということになってしまいますね。

 

(ここまで6層のネタバレ)

 

それにしても、黎明卿の登場で評価があがったのが、不動卿のオーゼンさんです。登場していたときは、単なる性格の悪い意地悪な変態おばさんと思われていたのに。

オーゼンさんにとっての愛は、親友ライザの子供であるリコを心配する気持ちと、それに対し命を無駄にするとしか思えない無謀な挑戦への怒りとなって現れたのでしょう。愛とは他人にはなかなか理解できないものですね。

 

ところで、好奇心旺盛な黎明卿が、6層以下に祈手を送ってないわけありませんよね。倒されたときも、「この身体がだめになったのは…」と言ってまして、死んだとは一言もいってないですよね。ぜひまたお会いしたいですね。みんなでアンブラハンズになって黎明卿を応援しましょう。