ひーらぐ日記

自然をこよなく愛する写真家?趣味や興味や楽しかったことだけ書く。

ハクメイとミコチの同人〜ミコチとマスターの出会い

アラビの港。

たくさんの船が接岸している。

漁船に混じって、ひときわ大きな船が停泊していた。

貿易船だ。

船から降りたミコチがオロオロしている。

ミ「えっーと…」

周囲は船から荷降ろしをする怒号で騒がしい。旅行客は、アラビから乗り継ぎのカップルばかりで、あとはほとんどが貿易商人だ。

観光案内所のような所もない。

ミコチは試しに地元の人々に声をかけてみた。

「案内所?案内なら荷降ろしが終わったら俺がしてやるよ!」

「アラビじゃ宿なんざ泊まるもんじゃねぇ。俺の家に来いよ!」

「飯か!家に食いに来い!」

ミコチはアラビっ子の勢いに圧倒されていた。

ミコチの故郷ケイの国も、人々は奔放で情緒的だ。家に知らない人が来たり、いつのまにか住んでいたりすることが度々あるが、どちらかというと、その場の空気に流されやすい。

しかしアラビの人々は、もっと自由で激しく勢いがある。推しが強いのだ。

ミコチは遠慮しているうちに、泊まる宿も決まらず、夜になってしまった。

アラビは港町で早朝から漁船が出港し、朝市が終われば人々は飲んで家に帰る。夜は早い。

港はあっという間に無人になり、ミコチは途方に暮れてしまった。

夕日が港を照らしている。

最終便の荷車が、港から集配所に向けて出発した。

ミ「あのー、すいません!」

運転手「わりぃ、急ぐんだ」

荷車が走っていく。慌てていたのか、荷物をひとつ落としていった。

ミ「あ、ちょっと!」

運転手「わりぃな!」

荷車はそのまま行ってしまった。

ミ「もぅ〜、どうするのよ、これ」

ミコチは荷札を見た。これも何かの縁と、届けることにした。

ポートラウンジ小骨のドアを開けると、マスターのマヤがいた。

マ「いらっしゃい。すまないが、今日はバイトの子が休みでね。コーヒーか、酒とおつまみ程度しか出せないよ」

ミ「実は、これ…」

ミコチが荷物を渡すとマヤはお礼を言った。袋を開けると、瓶に詰められたコーヒー豆が見えた。

マ「ま、お礼に一杯おごるかね。コーヒーは好きかい?」

ミ「ええ、とっても」

マ「本当は今届いた豆のを飲ませたいところだけど、煎るのに時間がかかるからなぁ」

ミ「コーヒー豆だったんですね」

マ「母さ…いや先代がね、世界中を旅しながら、いい豆を見つけたら送ってくるのさ。おかげで、先代の腕には一向に追いつけそうにないよ。ミコチはケイ国から来たのかい?」

ミ「はい」

マ「ヒノチには、布の買い付けかなんかかい?」

ミ「いえ、実はマキナタに移住しようと思って」

マ「へぇ、珍しいねぇ」

ミ「そうなんですか?」

マ「ケイから来る人は普通はカノカンから汽車でマキナタに来るからねぇ」

ミ「そ、そうなんですか?」

マ「船で来るのは布の買い付けに来る貿易商人か、南のリゾート地目当ての新婚さんぐらいだよ」

ミ「どおりで、カップルの多い船だと…」

マ「もしかして、一人旅も初めてかい?」

ミ「はい…実は今日の宿もまだ決まってなくて…この辺にいい宿はありますか?」

マ「浜通りにはB&Bが並んでるが、まぁやめといた方がいいな。うちで良ければ泊まっていきな」

ミ「でも…」

マ「新婚カップルばっかりで、夜はうるさいぞ〜」

ミ「あ…」

店に常連の客が何人も入ってきた。手には新鮮な魚を食べる持っている。

客「マスター、いいアイナメがあがったんだ。一杯やらせろや」

マ「だから言ったろ。バイトの娘が休んでるって。これさばいてたら、コーヒーが入れられんだろ」

客「だから夜はコーヒーを入れなきゃいいだろ」

マ「お前、ここが何屋だか知ってる?」

ミ「よ、良かったら私やります」

マ「おぉ?」

ミ「得意なんです、こういうの」

ミコチは刺身や焼き魚、アラ汁などをテキパキと作り始めた。マヤと一緒に作るとあっという間だった。ミコチの味付けは、どれもハーブや柑橘類、スパイスの組み合わせた凝ったものだった。

客「こりゃあいいな。今度うちの味付けも見てもらうか」

マ「こりゃいい、風味が効いてる」

マヤは奥に行ってコーヒー豆を選び出すと、割って煎りはじめた。

客は一通り食べて二、三杯やると、帰り支度を始めた。アラビの朝は早いのだ。マヤはコーヒーを出した。

マ「まぁ最後に一杯どうぞ」

客「ほぅ、いつもと違うな」

マ「今日の料理に合わせてみたよ。ちと酸味が強いかもだがね」

ミコチも入れたてのコーヒーをいただいた。

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マ「今日は助かったよ。ミコチはマキナタで料理屋でもするのかい?」

ミ「うーん。アルバイトなら。わたしが得意なのは、保存食とか日用品を作ることなんで、どこかのお店に出すのが現実的かな」

マ「へぇ。ならたまに料理を作りにきてくれよ。アラビじゃあなかなかああいう凝った料理は食べられないよ。」

ミ「そりゃそうですよ」

マ「ん?」

ミ「素材の美味しいところでは、調理法が発達しないんです」

マ「…なるほどねぇ」

ミ「さっきのコーヒーも先代が送ってきたんですか?」

マ「…」

ミ「マスター?」

マ「…いやね、先代が店を譲って出て行ったときのことを思い出してねぇ」

ミ「いろんな国から豆を送って来るとか」

マ「それがコーヒーの産地だけじゃなく、およそコーヒーが手に入らなそうな北国からも送って来るのさ。でももしかしたら、そういう国の方が、美味し淹れ方を知ってるのかもしれない」

ミ「なるほど」

マ「実はコーヒーの淹れ方、母さんは何も教えてくれなくてね」

ミ「へ?」

マ「それじゃ面白くないだろ、って」

ミ「…ふーん」

マ「ミコチの料理は誰かに教わったのかい?母さんとか、お姉さんとか…」

ミ「…ふふふふ」

マ「?」

ミ「マスターのコーヒーが美味しいのは、お母さんのおかげなんですね」

マヤは触れてはいけないことに触れてしまったと気づき、黙って笑っていた。

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【ミコチとマスターの出会い】

漫画では、ミコチとマスターの出会いは書かれておらず、想像に任せられている。ミコチがアラビに仕入れに行くこと、たまに小骨で飲んでほろ酔いで帰って来ること、普通に泊まっていくことがあること、仕入れた品を預かってもらうこと、アラビの人々がミコチやその料理の腕をよく知ってること、などから、ミコチはたびたび小骨で料理の腕を披露しているのでは?